ムラオ５

2007.06.30

ムラサキの出席率はランダムだった。
週に２回登校すれば良い方で、まぁ、登校してもまともに授業を受けてる雰囲気はなく、どこぞで喧嘩してるか寝てるか、または保健室で白衣の天使とイチャツイてるか、という感じであった。
ムラサキが白衣の天使とデキテルという噂は夏休み前くらいには公然の事実として構内に認知されていた。
まぁ、それはいいとして。
ムラオは相変わらずカツアゲに会っていた。
相手は金ドが影の支配者として君臨する『愛国愚連隊』という不器用に右よりな組織で、地域の右翼とも強い連携を持ち、地元の共産系支持者と朝日新聞購読者達との対立が耐えなかった。
それでもムラサキが学校にいる時だけはカツアゲに会わなかった。そして、カツアゲに会っても、もう母親の財布から金を抜き取ることだけはしなかった。
その心意気だけが今のムラオを支えていた。
ムラオはカツアゲの資金を稼ぐ為にアルバイトを始めていた。
バイトは燕子花高校から３駅行った所にある駅前のデニーズだった。夕方から始めて２１時までの短い間だったが、諸々の出費はなんとかそれで押さえることができた。
ムラオは入学式の日、あの汗の海の中で聴いたムラサキの鼻歌以来、すっかりMUSICに目覚め、夏休みまでになんとかギターを買おうと思っていたが、金ドによる執拗なカツアゲにより、働いても働いてもお金が貯まらない。何度か母親の財布に手をかけようとしたが、その度にムラサキの鼻歌フレーズが耳元で囁くものだからフッと我に返ることが出来た。
そんなこんなで夏休みに入ってしまった。
夏休みに入ると朝から晩まで働いた。
　　　そんな或る日の夕方、、
「いらっしゃいませ〜」
そこには白衣の天使とムラサキが立っていた。
「おう！がんあばっとるのう」
「こんにちは」
白衣の天使がニコりと笑った。
私服の二人は信じられないくらいダサかった。
お揃いの真っ赤なTシャツにはミキハウスとカタカナでプリントしてあった。
「あ、、ムラサキ、、先生、、」
「お前がここで働いてるって聞いてな、ちょっと寄ってみたわ」
「誰に聞いたん？」
「こいつじゃ」
そう言ってムラサキは白衣の天使を親指を横に寝かして指差した。
「もう！こいつって言っちゃ嫌」
「へへへ」
「ムラオ、こいつ紹介してなかったかな、こいつサユリじゃ。」
「知ってる」
「へへへ、だな。保健室で世話になったもんなあ」
「うん」
「ムラオくん、その後どう？相変わらずなの　金尾くん、、」
その時奥から店長の大きな声が聞こえた。
「おーい！！早くお席に案内してー！」
ムラオは手を振って合図してから二人を席にエスコートした。
「あ、禁煙席ですか？喫煙席ですか？」
「禁煙席で　へへへ」
「あ！ムラサキくん　やめたの　タバコ、、」
「いや、、まぁ、、こいつの腹の中にガキがおるんでな」
「えー！！！！そうなん！！？」
「もう！ちょっと〜ジョージったら、、」
「へへへ」
二人はとても幸せそうだった。
「ではこちらへどうぞ」
案内する途中、ムラサキが客にガンを飛ばしまくって歩くもんだから禁煙席は水を打ったように静かになってしまった。
「あ、、あの〜、、こんなん言いにくいんじゃけど、、ムラサキくん、、くれぐれも喧嘩とかやめてね。。」
ムラオは泣きそうになりながら言った。
「へへへ」
「大丈夫よ　ムラオくん！あたしが見てるから」
「は、はい　　あ！ご注文は？」
「俺は冷コー、お前は？」
「あたしは〜、、、これ！レモンスカッシュ！」
「かしこまりました」
まさかバイト先にムラサキが来るとは思わなかったから以外だった。俺なんか眼中にないのかと思ってたのに、、でもこうやって二人で来てくれるくらいだし、ちょっとは気にかけてくれてるんかなぁ、、嬉しいなぁ。それにしても白衣の天使のおなかに子供が？？ムラサキの子供？だよな、、でも『俺の』とは明言しなかったよなぁ、、それってどういうこと？？いや、、でもやっぱ普通に考えてムラサキの子供ってこと、だよなぁ。
そんなことを考えてる内にドリンクが出来上がった。
「おまちどうさま」
「おい、ムラオ、ところで、お前なんでこんな割の悪いバイトなんかやってんの？金がいるんか？」
「う、、うん」
「何の金や」
「え、、えっと〜、、」
言葉に詰まってると白衣の天使が言った。
「もしかして金尾くん？」
「、、、、」
「マジか！あいつも懲りん奴じゃのう、、」
「あ、、あ！でも、、ほんと大丈夫だから、、ムラサキくんが居てくれるお陰で随分マシになってるから、、」
確かに昔と比べればマシかもしれないが、しかし回数が少なくなった分、一回に持っていかれる額が大きくなってるのであった。
「おい！正直に言え。あいつナンボ吹っかけてきよるんじゃ？」
「、、、、４、、」
「え〜！！４万円？？？」
白衣の天使が大きな声を出したから他の客が一瞬驚いた。
「はい、、あ、でも何とかなってるんで、、大丈夫だから」
「まぁ　ええわ。あいつにはまた俺から話つけとくわ。ところでお前、どうせ働くならもっと割のええ仕事あんで。どや？やらんか？」
その時また店長の大きな声が奥から聞こえた。
「おい！！！！！ムラオ！！！お前は、、お前という奴は、、！」
「ごめん！ちょっと行ってくる！！その話、また聞かせて！」
ムラオは急いで厨房に入った。
ムラサキと白衣の天使は静かにドリンクを飲みレジで金を払って店を出た、出たところでムラオが店の裏から飛び出して来てからムラサキは反射的にムラオを蹴り飛ばしてしまった。
まるでベトナム帰還兵である。
「い、、痛ってぇぇ〜」
「なんや、お前か　急に飛び出してくんなボケ、俺には敵が多いんじゃ」
「ム、、ムラサキくん、、俺、バイト首になったから、、さっきの話、、続き、、、話して、、」
「ちょっと〜大丈夫〜？？」
白衣の天使がムラオの手を引いて立たしてくれた。
「おう！お前やる気になったんか！！」
「いや、、その、、とりあえず内容を聞いてから」
「よっしゃ　簡単な仕事じゃ。岡山におるワシの親戚のおっさんから大量に桃を仕入れてな、それをトラックに満載して行商していくんじゃ。売り切れたところで終わり。大体２週間で売り切れるわ。桃は５０００個あるんじゃ。それを５つ束にして７００円で売るんじゃ。全部売ったら７０万になるじゃろ。俺が５０、お前に２０やるわ」
「え？２週間で２０万円？！」
「そうじゃ」
「やる！」
「よっしゃ　ほんなら一週間でトラックと桃をスタンばっとくけん、お前もそれまでに親に２週間家を空けるいうて話付けとけよ」
「うん！持っていくものは？？」
「知るか　そんなもん自分で考えやい　わしが起きとる時はお前が起きて桃を売れ、お前が寝とる時はわしが桃を売る、これが基本的な仕事のシフトじゃ。まぁ２４時間２人交代制っちゅう訳じゃ。まぁの、暇な時はマジで暇じゃけぇ　退屈しのぎになるもんでも持ってきとけ」
「２４時間？？真夜中に桃売れるん？？」
「おう　結構売れるんじゃ。まぁ　やってみたらわかるわ」
「ムラサキくんやったことあるん？」
「３年前からやっとるわ、、一人で２４時間はマジで切れそうになるで明け方運転席で寝とたら客がノックしやがっての、シバイたったわ。まぁ、、今年はそういう事はアカンと思うたから、こうしてお前のバイト先まで来たっちゅうことじゃ」
「そうなんや〜。うん　わかった。俺がんばるよ！ほんまに２０万頂戴よ！！」
「全部売ったらやるけん、しっかり働けよ　へへへ」
「うん　へへへ」
「真似すんなボケ」
「うふふ」
「へへへ」
「へへへ」
「うふふ」
誰が誰の「へへへ」か「うふふ」か分からんようになるくらい
３人の「へへへ」と「うふふ」は真夏の日没に解け合っていった。