2012 盛夏 損して徳とれ! | ha-gakure

2012 盛夏 損して徳とれ!

2012.08.4


HPのリニューアルに伴い、こちらに移設となりました。これからもよろしくお願いします。

 

先日、盆参り終わった家から路地に出たら、近所の子供らが数名群れて用水路を見下ろしとって。

「ああ何か亀でもおるんかな」

と思って通りすがりに「どうしたん?」と覗いてみるが何もない。狭い用水路のヘリに両足を乗せ、水中を手探りしてるおっさんがおるだけ。
そうすると一人の男子が俺を見つけ、

「あ~お坊さんや、ねぇねぇ、あのおっさんな、僕らがお金見つけたのに勝手に取りに行ってセコいねん。あんなんしたらアカンよなぁ」

と言う。

事情が良く分からんから、切れ者そうな一人の女子に詳しく教えてと頼むと、その子は早口過ぎて何言うとるか分からんかった。

その内、全六名の内、五名がそれぞれ「アーだ、コーだ」話し始め、何が何やら分からんようなったから、喋ってない女の子に聞いてみたら、その子が泣き始めた。「はて?」

えらい事や。

「どうしたん?」

「ああ~あ泣~かした~」
男子が囃す。

「ごめんなぁ、何か悪いこと言うたか?」

女の子は首を振り振り泣く。

う~ん困った、、次のお参りの時間も迫って来てる。
しかしここで行く訳にもいかず、この件に首を突っ込んだ自分に疲れる。

「ちゃうねん」

切れ長の奥二重を持つ一人の男子が俺に語り掛けてくれた。

「ようちゃんな、(多分泣いてる女の子の名前)ようちゃんはな、この前な、お父さん死にはってん。そんでな、あれからすぐ泣くようになってん。
な、ようちゃん。お坊さんが悪いんやないよな?何か悲しいんよな?」

女の子が「チガウ、チガウ」と首を振る、、

うーん困ったなぁ。。

やがて女の子が小さな声で何かを言うてる。
「ん?何?ええで言うてや」

「あのな、お父さんのこと、お坊さんが遠くに連れて行ったんやろ?お父さん戻してほしい」

頭が真っ白なった。

あぁ、、なるほど、、そっか、。

葬式って子供から見ると僧侶が連れて行っているように見えるんやな。そっか、、

もしかしたら泣きじゃくるこの子に、親戚のおばちゃんから「もうお坊さんが連れていったんやから仕方ないんやで」という話をされていたのかもしれない。

無垢なこの女の子はそれを信じ、今ここで俺と会ってる。

 

———————死は敗北ではないのだよ————————————————-

 

 

『お空に、とか、君のココロの中に』とか、とても言えない。

なのに、
「一緒におるから大丈夫やで、いっつも見守っとってやで」
と、まるで守護霊のような伝え方しか出来んかった自分の僧侶としての根拠の曖昧さに家に帰ってから悲しくなった。

そんな俺を子供たちがフォローしてくれるんや。

「なぁなぁそれって守護霊やろ?」って言うてな。

頼りないんや「うん、まぁそう、、いうもんでもな、、いんかぁなぁ、、」とお茶を濁してたら、

子供らが、
「わぁ!ようちゃん良かったなぁ!ようちゃんのお父さん守護霊やって!
凄いなぁ 格好ええなぁ!良かったなぁ!」

と元気付けてくれたお陰で、ようちゃんという名のその女の子も涙を拭いて笑顔を取り戻してくれた。

ようちゃんは、あろう事か、
「ありがとう」

と言うてくれた。

あれからずっと考えてる。

子供同士、互いに癒し合ってるんじゃないだろうか。
大人になったら忘れる。

子供って凄い頼りない存在って思って手を差し出すが、本当はそれがなくても子供は子供で癒し合える力を持ってるって。
確か、自分もそうやって子供時代を越えていったような気がする。

さて、例の用水路のおっさんの件。

「そういや、お金、ええんか?」

俺が聞くと、一人の男の子がどうやらずっとおっさんの行方を見ていたようで、彼の報告によると、

「アカン、、あのおっちゃん、やっぱ盗む気や!」

「お金か?」

「うん!そうや。僕らが見つけたのに、あのおっちゃんが勝手に降りていって持って行こうとするんや」

「そうやそうや!」
と子供らが一斉に囃子立てたその時、おっさんが怒鳴った。

「ぎゃーぎゃーうっさいわぃ!だーとれぃガキャー!」

「キャー!怖い!」と子供らはおっさんを面白がってる。
俺も久々に大阪のエゲツナイおっさんに遭遇し笑ってしまった。

リーダー格の切れ長の奥二重の男の子が、

「落とし物は警察に持っていかなアカンのやで!」
「そーやそーやー」

一丸となっておっさんに挑み掛かるところなんて、何だか感動する。

おっさんは子供らの声を無視して作業を続ける。

どうやら雰囲気的に経済的困窮関係の家のない方のようなので、この機会に子供らに共存社会を伝える為にも、
「下のおっちゃんな、多分、お家がないねん。公園とかで寝とると思うわ。
今日まだ何も食べてないんかもしれん。せやし、お金がどうしてもいるんや。わかるやろ?」

子供らは明らかに不服そうに聞いてる。これから、まさに大人に言いくるめられるんやろなぁ的な諦めムードが漂う。

「君らみんなお家があるよな?」

「うん」と頷く。

「夜ご飯もあるやろ?」

「うん」と頷く。一人の男の子が「でもオヤツはないねん」

一人が「こいつビンボーやねん」みんなの緊張が解け、少し笑う。

「あのおっちゃんが、何も食べれんで病気になってもええんか?」

みんな首を振る。わぁ、、なんて素敵な子供達なんだろう!

一人がつぶやく

「でも、何かセコいわ、、」

みんながその意見に同意する、が、しかし、何となく諦めたようで、
「しゃあないわ、おっちゃんにお金あげるわ」

という切れ長の奥二重のリーダー男子の一言で、この件は幕を閉じた。

「ほんならな みんな バイバイ」

と、去ろうとした時だった。

「あんた~!そんなトコで何やってんの!スイカ切ったで~冷えてる内に食べや~」

と、向いの家から、おっさんの奥さんらしきオバはん出て来た。
おっさんは用水路から上がって来てオバはんと向いの家に消えて行った。

「おっさん家あったんかぁ~」

子供らの福祉に目覚めかけた感性が一斉にため息に変わる。

あぁ、、競争社会、、 余り好きじゃないなぁ。
弱者を蹴落とした者だけが掴む甘い果実。

恐ろしきかな、権利という名の処刑台。

こどもたちよ、でも与えてくれよ。許して損して徳を取れ!

意外と報われるもんやで。

形を変えて、忘れた頃に。
暑中見舞い申し上げます。