サイダー
2007.07.30
檀家のばあちゃんがな、毎月確実にボケていっとってね。
ほんで今日行ったらね、
「暑かったろ、なぁ〜。コレ飲み。サイダーな」
小さなグラスに入った氷とサイダー。
ミーンミーン、、そしてミーン、、と蝉。
ブーンと唸る扇風機。
付きっ放しのテレビから甲子園予選の実況。
土産の人形。熊の彫り物。
亡き夫の幾つかの賞状。
何かのトロフィー。
紫の座布団。
仏壇脇の桃。
台所の暖簾。
スイスのカレンダー。
テーブルの上の薬。
壁に掛かったドライフラワー。
近所の子供らの声。
開け放たれた窓から風が入りカーテンを揺らす。
ふわ〜と
すわ〜と
そんな感じの静かな時間
「はい、あ〜ありがたいなぁ〜。頂きます!」
蝉と風。
水やってん。
サイダーじゃなかったんよ。
水やってん。
ばあちゃん、めっちゃ優しい顔で俺がサイダー飲むのを見てんのよ。
「うまいやろ」
「はい!」
いいねん。こんなんでええ思うねん。
どれも根元は水やもんな。
サイダーも生まれた時は水やったしな。
ばあちゃん何か大事なもの俺に教えてくれたんちゃうか。
だから水うまかったわ。
蝉が良く鳴いた日の話。