或る匂い
2007.08.3
未来のことは分からんし書けんけど、過去のことは書けるよ。
忘れてることも多いけど、フトしたことでバババ〜ンと思いだして来たり。
俺ね、今日、友人が関わってる家展示(『家家家家家ー旧佐藤家アートプロジェクト』)に 行ったんやけどな、もうホンマ当たり前の古い味のある旧佐藤家という名の民家でね。
玄関開けた瞬間の家の匂いが「あ!これ知ってる!」って思ってな。
展示を見ながらお茶を頂きながら、友人たちや、お客さんらと会話しながらも、ずっと考えとってな。
-----------旧佐藤家----------
写真や言葉、造形や、映像、10名の表現者の方々がそれぞれに個性を発揮しながらも、旧佐藤家という圧倒的な空間の中で上手にまとまっていて、ギャラリーのように気をつかうこともなく、遊びに行った感覚で見てゆけます。
二階もあって、非常にサウナやったけど、そこの作品が面白くてみていたら暑さにも慣れて来て、時は知らぬ間に経って。
-----—その間もずっと考えてた-----—-
最後に挨拶して、玄関出て、歩いてて思い出した。
『小学5年の時に引っ越して行ったアノ娘の家の匂いじゃ!』
-----—アノ娘----------------
好きなんか嫌いなんかわからんまま引っ越していってね。
わかってるんは、何らかの特別な感情があるってだけね。
向こうは何も意識してなかったのは俺よ〜く理解してた。
だからこそ、気を引く為に色んなことをやった。
泥水飲んでみせたり、終わりの会で異様に発表したり、
班替えで、たまたまアノ娘の前になったら嫌がって席を変わってもらったり、本当は本当は大好きで仕方なかったはずなのに、
報われないかもしれないという不安が俺を少しずつ壊していった。
変な声を出したり(奇声にも似た)、今日はコイツと喧嘩しよ、と思った相手をわざとアノ娘の席の後ろとかに誘き寄せて、喧嘩してみたり、誰かに突き飛ばされたらわざとアノ娘の机に当たる程よろめいてみたり。
嗚呼、報われない魂ヨ、君の落下点はどこなんだい?
-----—-そんなアノ娘が----------–
「転校するんだって」
っていう話が回って来たのは5年の春休み。
堤防に座って誰が好きなん大会を友人とやっていた。
「俺、アノ娘が好きじゃ」
誰かがはっきり言うて、
「うっそ〜!信じられん〜」と俺言うてもうて。
「お前好きなんか思うとった」
と回りから言われ、
「なんでじゃボケカス シバクで!」
と余りにお粗末な俺は、心の中で、
『本当の俺は一体どこなんじゃろう』
とそれなりに若きウエテルの悩みバリ。
そんな中、ふと誰かが、
「そういや あいつ転校するってよ」
「ええ!!、、ふ〜ん、そーなん」
アカラサマに声が裏返ってヤバいと思い、即座に訂正して
他人事かのように平静を保とうと繕うところは今も変わってない俺のアホなところ。
誰か事の真意を更に追求してくれ!とこころの中で切に願いながら待ってると、
「マジ!?誰が言うとったん?」
と願ってもないピンポイントの質問。
耳を澄ます。
「うちのオカンが言うとった」
俺、
「仲ええん??」
「は?あ、うちのオカンとアノ娘のオカン??」
「うん」
「ママさんバレー仲間よ。こないだの練習の時、転勤で山梨行くけん、今日が最後じゃけぇ送別会もしてくるし遅くなるよ、言うとったもん」
「そうなん」
それっきり誰の話題にも登ってこなかったアノ娘の話。
好きじゃ言うてた奴も屈託なく笑ってポッキー食ってたし、
アホみたいなバカ話適当にして家路へ着いたが、その日は相当参ったで。
そっから、好きなんか嫌いなんか、ずっと考えたけど、気になるって事しかわからんで、モヤ〜とした春休み。
遂に意を決してアノ娘の住所調べて、家を特定して、って所まで
気持ちは犯罪者的に高まっていて、いよいよ実行、という段階で怖じ気づいてもうたから、アノ娘が好きじゃ!って言うてた奴に電話して、呼び出して、
「お前のう、あれじゃろ?アノ娘、、好きじゃ言うとったじゃろ?」
「そうじゃ」
「のう、今からの、あの娘の家の方、行ってみんか?」
「は?何しに行くん?」
「、、、、ドライブじゃ」
「ドライブ??」
「そうじゃ。前、ちょっと家のある方を通ったことがあっての、
魚が一杯おる川の近くじゃったけん、釣り場の偵察も兼ねてあの辺、ちょい行ってみん?」
と完全に家まで特定してるくせにシラを切って彼を道連れにしてまう、この病のような俺の性格。。未だ治らず。
と、何も知らず意気揚々とチャリを漕ぐ彼を先導しながら、
もしかしたらアノ娘に偶然会えるかもしれん、、という期待で胸はパンパン、体が震えた。
目的は把握できてない。
何しに行くんか分かってない。
ただ、リアルな体験をしたかった。
『初期衝動』というもんか。
俺の初ロック体験。
-----------ロック----------
小さな橋を渡る前から青い屋根の、田舎にしては目立つ屋根が見えてた。
スピードを落とす。
遠くから満遍なくアノ娘の家を見渡す。
人の気配はない。
大根が干してあるから誰かおるんだろう。
「なぁ。どこら辺なんアノ娘の家」
「ああ、、もうちょい先やで」
奴を道連れにしてるくせに、アノ娘の家の在処は教えない俺という人間は。。
アノ娘の家に今、俺はここで呼吸してる、バリのヤバさでドキドキやで。
今にも玄関から出て来るんちゃうか!!という期待と逃げ出したい衝動と、矛盾の要塞みたいな世界を右往左往。
チャリン!チャ!、、チャリン!
「どうしたん?」
奴が聞く。
チャリン!チャリン!!
「おい!」
奴が怒鳴る。
チャリン!!チャ!チャリン!!!!
「何や!一体どうしたんや!!」
「い、、いや、何かええ音するなぁ、、って思って」
俺はセメてもの積極的な方策としてチャリのベルを家の前で鳴らすという安易、稚拙極まりない作戦に打って出た。
「そうか〜」
と言って奴もチャリンと鳴らしてみた。
「お!ほんまや!」
洗脳というのか、奴はその気になって狂ったように鳴らし始めた。
チャリンチャリン
チャチャ、、チャリリリリリン!!!!!!
「うおー!!気持ちええ!!!!」
奴は何かに取り憑かれたように鳴らし始めた。
二人で鳴らしまくってると、
「コラ!!くそガキャ〜!!」
と爺さんが川から竿持って上がってきた。
「おんどりゃ魚が逃げるじゃろうが!!」
「、、、、」
俺等が黙ってると、
「何や、ミエの学校の友達か」
ミエというのがアノ娘の名である。
「はい!!」
好き宣言した奴が異様なバカ明るい声で答える。
「来てくれたんか」
「え?、、はい?」
と奴が俺の顔を観る。
まさかアノ娘の身内が登場してくるとは思わんかったからパニクっていたけど、黙ってる訳にもゆかず、
「あ、、はい。ここなんですか◯◯さんの家?」
俺がとぼけて答える。
「そうじゃ そうじゃ。お〜い!ばあさん〜!!!」
爺さんがデカイ声でばあさんを呼んでる。
あぁ、、そんなんしたらマジで、いや、どう考えてもアノ娘も出てくるじゃん。。と冷や汗をかきながら、どうしよ。。と焦る。
間もなくばあさんが出て来て、
「ミエの同級生?まぁ〜ありがとう!おいで下さったん!」
ばあさんに深々お礼を言われて赤面する。
そんな純粋な動機じゃないんです。
好き宣言した彼は意気揚々と優等生発言を連発している。
「いあや〜まさかここが◯◯さんのお家だったとは〜
こいつが◯◯さんの家はもっと先じゃけぇって言うとったけん僕びっくりしましたぁ〜。あ!◯◯さん、今、家におるんですか?」
好き宣言したのに、良くそこまで元気一杯に核心を突けるなぁ、、と感心しつつ、、その質問に対する答えをドキドキしながら待つ。
「あぁ、、それがもう山梨行っちゃったんよ、、せっかく来てくれたのにごめんなさいね〜」
「うっそ〜!マジっすか〜。早いっすね〜」
こいつ、ほんまにアノ娘のこと好きなんか?と疑いつつ、内心、倒れそうになる。
『あぁ、、もう会えない、、、せめて一目会いたかった。。』
と、切腹仰せつかったボンクラ侍のような生温い余韻が俺を支配する。
陽は暮れようとしている-----—サヨウナラ------
左様なら、左様なことなら、さっさと帰ろうと思い奴を促してると、
「あれま、せっかくおいでなすったんじゃ、ちょっくら上がって行きんさい。あ、おじいさん、昨日取って来たクルミ、あげんさいや」
「お〜!」
と爺さんがクルミを取りに裏庭に回り、おばあさんは俺等を促して玄関先へ。
「なんだかすんません〜おじゃましま〜す!」
好き宣言した男は、自分の家かのようにズカズカ入っていく。
放心状態で玄関に佇んむ俺の鼻をくすぐる匂い、土壁と、湿気、
玄関脇に置かれた花の交じったコノ匂いこそ、今日俺が思い出せそうで思い出せずムズムズしていた匂いのルーツでした。
こんなことも、ありましてん。
おしまい。