ふつうってコト
2012.11.24
宗教とは一体何なんだ?
今日は本当に腹が立ち、深く考えさせられた。
今日は或る方の二十七日法要に参って来た。
今は、ご主人を亡くされ、奥さん一人で過ごしておられる。
丁寧に玄関先で来着を待っていて下さり、傘を差し出してくれるとても優しい方。
自宅に上がり、仏前の前でお勤めし、通夜、葬儀ではほとんどゆっくり話す機会がなかったから、お茶を頂きながら色々と話す。
「あぁ、仏壇がありますね」
今はもう仏壇がある家が珍しくなったから、という事もあるが、それより、余り見掛けない風の仏壇だったから気になって聞いてみた。
「はぁ。。あれはね。。」
奥さんはポツリポツリと話始めた。
「実は以前、或る宗教に入ってまして、それが嫌になって脱会したんです。
しばらく罰があたる、地獄に堕ちると脅され、毎日人が入れ替わり立ち代わり上がって来て酷く説得されたんです。
主人共々、精神的に耐えられなくなって、借金してでも逃げようという事で、お金を借りてようやくここに引っ越して来たんです。
しばらくは静かな日々が流れておったんですが、その某宗教団体の仏壇というんですか、その祠みたいなものを捨てるという事も出来ず、
引っ越し先に持って来たんですが、何とか処分しなきゃ、という事で友人に聞いて回っていたら、ある方がね、
高野山の麓にある某不動尊という寺で祈祷して処分してくれるよ、という事で喜んで持って行ったんですよ」
奥さんはしゃべり続けた。
「貯金を切り崩して、大金をはたいてお祓いして頂いて処分したのです。
ようやくやなぁ、やれやれ、と主人と一緒に住職さんにお礼を言うと住職さんは、また新たに仏壇を買いなさい、と言われるので、
それはそうだなぁ、と思い、はいそうします、と答えたらカタログを持って来て、どれにする?と言われるので『今すぐっていうのはちょっと』と申しますと、
先祖はどうなる?その間空中を彷徨うことになって災いを起こすぞ、と言われるもので、恐ろしくなって、一番安いのを、その場で購入したのです。
それがこの仏壇ですねん。うちの宗派に合わせて作って下さったみたいなのですが、どうでしょう?」
仏壇中央に本尊の軸が掛かっているだけの木の箱のような仏壇である。
不足している部分も多いが、それはお金の掛かる事でもあるし、最低限のことはしてある様子し、何より、余り余計な心配を掛けたくなかったので、
「はい、大丈夫です。<足りない>ということはないです。むしろ本来なら無用なものがありまして、それをどうするか話し合いましょう」
奥さんは安堵しながら仏壇を見詰め、
「よう見たら周りに色々ありますね、。あれやこれや用意せえ、と言われるもので、、何が不要なものでしょう?」
共に仏壇に向かいながら、
「先ず、この御札のようなものが沢山ありますが、、」
「あぁ、これは先祖の名前を書いたものでしてね。
仏壇を購入した時に、あちらの住職さんが、祀る先祖は誰と誰かとお尋ねになられるから、あたし、親戚中に聞いて回って、ここにある20名の先祖をメモして渡したんです。
そしたら一枚3万円でこの御札に名前を書いて、更に毎月命日には、ここでお参りしてあげるから入金して下さい。一体一万円です。そんな風に言われるんです。。
そんな、、毎月20万円なんてとてもお支払いできません、とお伝えして、何とか主人の両親とあたしの両親の4万円という事で了解してもらったんです。
その時は、そんなお寺でも友人がせっかく紹介してくれた住職さんやし、という気持ちもあって、むしろ<ありがたい>気持ちで帰宅したんです。
そしたら電話がありまして、水子はいないか?と聞かれたんです。あたしにはおりませんでしたが、母にありましたのでお伝えすると、水子は5万円、これは絶対に供養しないと祟ると言われるんです。
そして、仏壇の周りを出来る限り水を入れたコップで一杯にするように、と念を押されて、、、あたし、怖くなって主人に言うと、毎月9万なんてそんな金はない!って言われたんですが、あたしが精神錯乱みたいになって、主人も渋々承知してくれたんです」
もう壮絶過ぎて言葉もない。そして何と酷い坊主がおったもんだと哀しくなる。
奥さんは長年の孤独を一気に吐き出すように続けた。
「こんな文化住宅の何処にそんなお金があるんでしょう。。
何とか半年は入金し続けて来たんですが、息子の嫁がその事を知って、或る日大げんかしたんです。
そんなお金があったら家族で海外旅行も行けるって。確かにそうですよね。。ホンマにお参りしてくれてるかも分からんのに9万って。。あり得ん!って。
そんな事もあってそれからはもう入金してません。催促の電話も随分ありましたがね、、」
「そうでしたか、、」
俺は複雑な想いで話を聞いていた。
奥さんはずっと何か「手応え」のあるモノを探してるんだろうか、と。
「奥さん、大変な目に遭われましたね。正直に言いますよ。先祖が祟る、水子が祟るなんて事は私が全責任を持って否定します。
考えてみて下さい。その住職は奥さんが差し出した20人の先祖のメモ出した時に何か言いました?多い、少ない、とか」
「はぁ、以上ですか?」と。
「そうでしょう。先祖に『以上』なんてないのですよ。
奥さんが生まれる為に必要なのは誰か?父上、母上ですね?しかしそれだけで済みません。
トンチ話みたいでごめんなさい。
しかし、これはお伝えさせて下さい、父の両親、母の両親、その両親の両親、またその両親の両親と自分に関わる親というのは際限がありません。
人類が微生物だった頃であっても自分に繋がる生命というのはあります。
それも親なのです。
そう考えるとあっという間に自分に関わる親の数は億を越え兆を越えてしまうんです。日本の人口を越え世界人口を越えてゆくんです。
これを知って欲しいのです。
あまたの先祖を全て供養している人なんてこの世にいません。
それで供養が足りんと言うて先祖が祟るのなら皆、祟られています。道理に合わないこと、これを『外道』と言います。道理とは一体何か、という事を生活の判断基準にしてゆけば迷うことはありません。
先祖に手を合わせるという事は<怖い>からではなくて、今が<嬉しい>から、、になって行けるよう色々お話していきましょう」
本当の事はいつもシンプルである。
先ずは二人で仏壇の周りに溜まりに溜まった様々なモノを整理した。
いつか、奥さん自身の心の中の整理整頓を手伝えたらと思う。
不要なもの、これはうちで処分しますね、と言うと奥さんは恐る恐る
「おいくら、、掛かります?」と聞かれた。
貰ってないのです。本来そんなものは存在しません。
過去帳という3000円程度の仏具だけ用意して下さい。そこに全て書き写します。そう伝えると、
「騙された、、」と泣き始められ、もっと上手い言い方があったか、と自分の非力さに参った訳であるが、数々の宗教を渡り歩かれ、有り金を吸われ続けて来た奥さん、ご主人が病に倒れてからは国の世話になってると、酷く後悔しておられる。
もう二度と同じ目には遭って欲しくないから
「思い切ってお聞きしますが、何かが物足りないのですか?」
と訪ねると
「孫にも恵まれ、息子も真面目に働いてくれてる、夫婦仲も良い、嫁も良くしてくれる、これで不足なんて言うてたら罰があたります」
と胸を張って申された。そして、次の言葉がとても響いた。
「怖いのです」
「え?」
「怖いのです。この普通が壊れるのが。。」
いつ壊れても不思議じゃない『ふつう』を生きてる。
不思議とまだ壊れていないから渡れる。
その橋を今は渡れている。
だけど皆、知ってるんだよ。
明日壊れて対岸に渡れなくなるかもって。
だけど信じたいんだよ。
明日も渡れるって。
もしかしたら永遠かもって。俺の橋だけは尋常じゃない!めちゃくちゃ頑丈って。
奥さんも、俺も同じ橋の上に立ってる。
奥さんには時間を掛けて伝えたい。
その橋しかないって思わないで。
もしかしたら泳いで渡れるかもよ。同じ困ってる人たちで筏作って渡れるかもよってね。
うまく言えないけれど、そんな人間じゃないけれど、今、当たり前に渡れている不思議に不思議な思いがして色んなものが光ってみえた。
「南無不可思議光」